無償化の波と消えゆく収益

シンギュラリティ・ユニバーシティ(SU)の共同創設者であり、XPRIZE財団のCEOでもあるピーター・ディアマンディス。彼はSUのサイトで、「今から20年で生活コストが激減する理由」という紹介をしています。

これは彼が2012年に出版しベストセラーになった Abundance という本(邦題「楽観主義者の未来予測」)に基づいた内容です。示唆的な内容となっていますので是非以下に紹介しましょう。


現在、人工知能(AI)が、近い将来において、人の仕事を奪ったり、経済システムが破壊したりすることを懸念する人もいます。しかし「生活コストの急速な無償化」について触れる人はいません。でも、人類の基本的な欲求を満たすコストは、実はどんどん安くなっているのです。

エクスポネンシャルな科学技術の発達により、住居、移動、食事、健康、娯楽、衣服、教育等のコストは、最終的には、ゼロに近づきます。

起業家やCEOとして、この流れと影響を理解することはとても重要です−今後の我々の思考様式を変えてしまうことでしょう。

我々は何にお金を使っているか

我々の支出は大体似たり寄ったりなもんです。

アメリカでは、2011年、75%以上の支出が、住居、移動、食事、保険、健康のために費やされました。中国でも、食事、住居、移動、福祉のために大部分が支出されています。インドでも、食事や移動等が主な支出です(住居や健康への支出割合は低い)。

文化等の違いはあれ、人々の支出は、「移動、食事、健康、住居、エネルギー(水光熱費)、教育、娯楽」の7分野に分類できます。

これらのコストが激減したら何が起きるでしょうか?

急速な非収益化(無償化)とその意味

「非収益化(無償化)」とは、テクノロジーの発達により、かつては高額だった商品・サービスが、安く、限りなく無料に近づくことを意味します。

例えば、写真について考えてみましょう。コダックの時代、写真は高価なものでした。カメラ、フィルム、現像等すべてにお金がかかりました。今は、スマホの写真は無料です。フィルムも現像もありません。完全に無償と化しました。

情報・リサーチもそうです。かつては、自分でデータを集めることは困難でしたし、人にリサーチを頼むとお金がかかりました。現在、グーグルの到来により、これらの情報収集は、無料で、しかも、1000倍も質が良くなっています。

長距離通話やビデオもそうです。スカイプその他により、非収益化し無償化されました。

他に、iTunes が音楽業界に、Uberが交通業界に、Airbnbがホテル業界に、Amazonが出版業界に、非収益化と無償化をもたらしています。

1969年や1989年には課金されていた商品・サービスのうち、現在、90万ドル(約1億円)分が、無償で提供されています。我々のスマートフォンには、1億円相当のアプリがあるようなものなのです!

(1億円相当のスマホアプリ。グラフ:SingularityHUBより

では、我々がお金を使っている7分野は、今後どのように無償化されていくのでしょうか。

1.移動

Uberなどにより、自動車業界は非収益化・無償化が進んでいます。しかし、これは始まりにすぎません。Uberが自動運転化すれば、さらに非収益化・無償化が進みます。

自動車保険、自動車修理、駐車場、駐車場代、燃料費なども無料になるでしょう。未来の移動コストは、マイカーを運転する現在より、10分の1以下になるでしょう。

これが移動に関する未来です。ゆくゆくは、最も貧しい人も、簡単に自由に移動できるようになるのです。

2.食事

この1世紀で、食料品コストは、13分の1以下に安くなりました。この傾向は続きます。

(収入に占める食料代。グラフ:SingularityHUBより

さらに、垂直農業(場所を取らない室内栽培)が、より一層、コストを押し下げていきます(食料品コストの7割は、輸送費・保管費・人件費が占めていますから)。

また、遺伝子工学・生物学の発達により、単位面積あたりの収穫量も上がり、これも食料品コストを下げる要因になります。

3.健康

健康は、①診断、②手術、③治療及び④医薬品の4分野に分類できます。それぞれ見ていきましょう。

診断:人工知能がすでに医者よりも優れたガン診断を行っています。
手術:ロボットが、より高精度の手術をするようになるでしょう。
治療:高齢者医療も、ロボットが上手に行うようになるでしょう。
医薬品: 調剤も、人工知能が代替するようになるでしょう。そして、3Dプリンティングにより、家庭で、その日のあなたの体調に最も適した薬を処方してくれるようになるかもしれません。

ゲノム配列に関するコストも、ムーアの法則の5倍以上の速さで、急速に無料に近づいています。この技術により、あなたがどんな病気になりやすく、どんな薬が最も効くかを、適切に予期することができます。

(遺伝子シーケンスの価格下落、Source: NHGRI

4.住居

なぜ住居にコストがかかるのか? 例えば、セントルイス郊外では、わずか1000万円で、マンハッタンの10億円マンションと同じ広さに住むことができます。

1に場所、2に場所、3に場所なんです。人々は、職場や歓楽地に近い場所に住もうとするからです。

住居コストの無償化の要因は2つあります。1つは、ICT技術の発展により、家と職場の距離は無意味になります。職場から離れた安い土地に住むことができます。なぜなら−
・自動運転車 − 通勤時間が、読書、睡眠、娯楽、会議の時間に充てられます。90分の通勤は全く苦になりません。
・バーチャルリアリティー − 職場が、同僚がアバターとして働くバーチャルリアリティーだったら?通勤そのものが不要になるのです。起床後、バーチャルリアリティーにログインしさえすれば、農場からであろうが離島からであろうが、勤務を開始できます。

もう一つの住居コスト無償化の要因は、ロボットと3Dプリンティングです。ロボットと3Dプリンティングにより、家の建築コストが急激に下がるのです。

例えば、中国のWinSun社は、3Dプリンティングで、すでに6階建ての建物を建てています。

(3Dプリンティングされた家、ソース

5.エネルギー

人類が1年間で消費するエネルギーの5000倍もの太陽光エネルギーが、わずか1時間足らずの間に、地球の表面に降り注いでいます。貧しい国により多くの太陽光が注いでいることは、富の分配のために、好都合でもあります。

太陽光コストは、キロワット時間あたり35円まで下がっています。今後、さらに下がるでしょう。

6.教育

教育コストは、多くの点ですでに無償化されています。みなさんが学生時代に学んだ知識は、すべてオンラインで無料で得られます。

CourseraKhan Academyのみならず、 ハーバードやMITやスタンフォード大でも、高度な授業を、何千時間分も、地球上のすべてのインターネットに接続できる人に公開しています。

これは始まりにすぎません。じきに、世界で最も素晴らしい教授はAIになり、廉価または無償で、人々の教育欲求を完全に満たしてくれるでしょう。

億万長者の子息も、貧者の子息も、同等で最高の教育を、無料で得られるようになるのです。

7.娯楽

ビデオやゲームのような娯楽は、かつては、それぞれの機器の購入が必要でした。

今では、ストリーミング、YouTube、 Netflix や App Storeにより、遥かに多くの選択肢がありますし、これらは急速に無償化しています。

例えば、YouTubeには、インターネット利用者の3分の1を占める10億人以上の利用者がいて、毎日、何百時間も視聴されているのです!

(原文記事:Singularity Hub、抄訳:中山達樹)